※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※
2019年11月22日、研究会「蘆庵本の歌書について―近世中後期における古写本収集の潮流」を開催した。当センター古典籍資料研究プロジェクト「龍谷大学図書館蔵蘆庵本歌合集の研究」では、龍谷大学図書館を含む日本国内の所蔵機関に収蔵されているすべての写本群を調査し、書誌的事実や歌合資料としての本文的価値を明らかにすると共に、小沢蘆庵の書写活動の実態と詠歌・著作活動との関係について研究を行っている。加藤弓枝氏(鶴見大学文学部准教授)が講師を務めた本研究会は、上記プロジェクトの一環として開催された。
小沢蘆庵(1723-1801)は江戸時代中期に京都に住み、平安和歌四天王の一人に数えられた著名な歌人/国学者である。小澤蘆庵及びその門人が書写した膨大な歌合写本群は、歌合研究にとって重要な伝本群であるにもかかわらず、その全体像は未だに解明されていない。
発表では、刈谷文庫蔵の小沢蘆庵の歌合写本(刈谷本)と村井古巖(1741-1786)による奉納本の神宮文庫所蔵の写本(神宮本)の関係に焦点があてられた。従来、神宮本は刈谷本の底本であるとされてきた。しかし加藤氏は、刈谷本と神宮本の異同、朱書の校異や註記等を丹念に検証し、これらの写本の関係性についての新たな可能性を提示した。つまり、刈谷本と神宮本は底本・写本関係にあるのではなく、同じ底本を共有するのだという。加藤氏は、両写本の底本は未だ不明であり刈谷本が神宮本の直接の写しではないと断定するには更なる調査が必要であると慎重な姿勢を見せながらも、刈谷本と神宮本は同時期に同じ底本を借りて作成された可能性が非常に高いと指摘した。
刈谷本を作成した小沢蘆庵と神宮本を作成した村井古巖は共に同時代を生き、京都で書写活動を行っていた。もし小沢蘆庵がある底本をどこかから借りて写し、同じ底本を村井古巖が借りて写したとしたら、歌合写本群は当時の書写活動や文化人たちの交流などを垣間見る手掛かりとなる。刈谷本と神宮本の検証を通して、文学史・和歌史的な重要性だけでなく、文化史をひも解く貴重な資料としての歌合写本群の側面が示された。
講師の加藤由枝氏
※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※
※一般来聴歓迎。お気軽にお越しください。