小布施 祈恵子 (神戸市外国語大学客員研究員)
司会 佐野 東生 (龍谷大学教授)
コメンテーター1 嵩 満也 (龍谷大学教授)
コメンテーター2 井上 善幸 (龍谷大学教授)
内容
本講演は、仏教とイスラームの比較研究を専門とする小布施祈恵子氏を招き、比較上の理論的前提と具体例について解説した上で、インドにおける仏教からイスラームへの変遷の歴史を基に、両宗教の相手宗教への誤解を含む肯定的・否定的評価が論じられた。
まず諸宗教の比較研究上の理論的整理として排他主義、包括主義、多元主義的立場がその限界を含め紹介され、現代的な立場として比較神学を基に、諸宗教の類似性を価値判断を交えず評価する並列主義の有効性が説明された。次いで、イスラームと仏教の比較研究の例でイムティヤーズ・ユースフとシャー=カーゼミーを取り上げ、それぞれ実践的、理論的立場から両宗教の類似点の究明がなされていることが指摘された。
これを基にインドにおける仏教とイスラームの歴史的関係の例が説明され、イスラームへの否定的見解として『時論タントラ』にみられるイスラーム侵入に伴う仏教側の否定的見解の例や、イギリスのインド植民地化に伴うイスラームへの負のイメージの宣伝の例などが挙げられた。他方でイスラーム側のマスウーディーなどの史料で仏教をある程度評価した例もあり、現代において歴史の「脱植民地」的再評価、および並列主義的な研究方法の導入による仏教・イスラーム間の誤解を解いた新たな比較研究の可能性、および対話促進の方向性が論じられた。
発表スライド 小布施「仏教とイスラーム」