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【報告】「現代の日本仏教における社会の分断化と地域社会へのアウトリーチ活動」

2024.07.18

那須氏

龍谷大学大宮キャンパスでは、2024年7月4日(木)に「Social Fragmentation and Community Outreach in Contemporary Japanese Buddhism(現代の日本仏教における社会の分断化と地域社会へのアウトリーチ活動)と題する国際ワークショップが開かれた。講演者はエリザベッタ・ポルク氏(ケープタウン大学、南アフリカ共和国)、コメンテーターはウゴ・デッシ氏(ウィーン大学・宗教学部 専門研究員)である。司会は本学教授の那須英勝氏がつとめた。

 今回のワークショップでは、ポルク氏が研究を進めている研究プロジェクトが紹介された。ポルク氏は、現代の日本社会における宗教離れの現象と、その現象に対応しようとしている仏教寺院の活動、特に大衆文化を活用した、従来とは異なる宗教的なアウトリーチ活動ついて、具体的な事例を提示しながら説明した。

ポルク氏

 まずポルク氏は、宗教がもはや現代社会において結合の役割を果たさないと述べる、社会学者エンツォ・パーチの理論を引用した。そして、こうした状況のなか、宗教団体はいかにして資本主義社会にアプローチしているのかを説明した。そのアプローチについて、ポルク氏は京都でのフィールドワークから得られた調査結果の一部を紹介し、仏教寺院と大衆文化の関わりを示す具体例を紹介した。それは、マンガやアニメなどを新しいマーケティング・ツールとして活用し、それぞれの宗派の社会的な認知度を高めようとしている仏教寺院の活動例である。例えば、本願寺派ではマンガやアニメなど大衆文化的な媒体を用いて親鸞聖人や蓮如上人の教えを一般向けに届けている。他の宗派でも、ポピュラーな音楽や、メタバースのようなバーチャル・リアリティ技術を利用したアウトリーチ活動を繰り広げている。ポルク氏によれば、日本におけるこうした文化の活用は、世界における禅ブームのように、日本のソフトパワーを向上させる効果もあるという。このほか、日本における宗教活動が仏教寺院や日本社会、さらには海外においていかなる影響を及ぼしているのか、ポルク氏がこれまでに実施した調査に基づき紹介した。

デッシ氏

 次にポルク氏の発表を受け、ウゴ・デッシ氏がコメントを行った。その中心となったのは、社会と個人の分断という現象が日本仏教にどのような影響を与えているか、という問題である。デッシ氏は、マンガやアニメといった大衆文化や最新のテクノロジーを活用した宗教的なアウトリーチ活動について、確かに一般人が身近に宗教に触れる機会となると述べた。その一方で、こうした大衆文化や技術を用いた宗教の過剰な商品化が、1990年代から急速に進んだ日本社会におけるネオリベラリズムの浸透と、そうしたイデオロギーを基礎にした文化資本主義の現象をも物語っているという。とはいえ、ポルク氏によって指摘されたように、宗教団体への加入率は減っているものの、その低下率は他のボランティア団体の加入率ほどではないという。また、宗教団体に所属した人々の投票率が高いという調査結果から分かるように、宗教団体による社会的なアウトリーチ活動が、社会的な分断を防げる効果があると述べた。

質疑応答の様子

 今回のワークショップを通じて、現代の日本仏教が直面する課題と、それに対応しようとする新たな活動と問題点が見えてきた。それと同時に、日本仏教、市場経済、科学技術の間の複雑な相互作用が説明され、宗教と文化の二重の商品化現象と、グローバリゼーションの影響でローカルに生成される新たなハイブリッド文化についても明らかになった。講演後、参加者を交えた活発な質疑応答が交わされ、盛況のうちにワークショップは終了を迎えた。

登壇者の集合写真