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【報告】「シルクロードの仏教文化-日本及びドイツ所蔵の古代ウイグル語版本アビダルマ文献について」

2024.10.10

 2024年9月27日(金)、龍谷大学大宮キャンパスで“Buddhist Culture of the Silk Road: On the Printed Old Uyghur Abhidharma Texts in Japan and the German Turfan Collection”と題する国際学術講演会が開かれた。講演者はアブドゥルシッド・ヤクップ氏で、龍谷大学と長年共同研究をおこなってきたドイツ・ベルリンブランデンブルク州立科学アカデミーのトルファン研究所の元所長で、本学古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センターの客員研究員でもある。
 司会進行を古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センターの荻原裕敏氏、講師紹介を本学教授の三谷真澄氏がつとめた。
 ヤクップ氏は、1か月間の京都滞在で、本学大宮図書館ほか、天理大学附属天理図書館や藤井有鄰館に所蔵される版本資料の実見調査の途上にあり、今回の講演会では、ヤクップ氏が研究を進めている古代ウイグル語によって書かれた文献、特に印刷されたテクストを取り上げ、世界各国に分蔵される同種の文献の内容を紹介していただいた。

講演中のヤクップ氏

講演会要旨
 ヤクップ氏は現在「北方シルクロードにおける古代ウイグル人の印刷物と印刷文化」と題したプロジェクトを進めており、その調査によって明らかとなった龍谷大学大宮図書館所蔵資料を中心とした成果も反映した内容となった。
 ヤクップ氏の調査によると、ベルリンのトゥルファン・コレクション、約8000点の古代ウイグル語断片の内、約12%、1000点余りが版本に分類されるという。また、これらの版本の内容は、仏教文献、特に密教関係・中国撰述仏典(いわゆる偽経)が大部分を占めるが、大乗仏教及び部派仏教の文献も若干存在する。これらの他に、暦の断片が2点存在することは、注目に値する。版本の概要に続いて、古代ウイグル語文献に見られる「十二縁起」を表す諸形式を例に、古代ウイグル仏教における仏教術語受容の問題を論じた。ヤクップ氏は、アビダルマ文献に関連づけられる版本に見える「十二縁起」の記述に注目し、初期から後期に至る古代ウイグル語文献に調査範囲を拡げ、版本を含む後期の古代ウイグル語文献に見られる「十二縁起」に対応する形式が、初期及び中期の古代ウイグル語文献に見られる形式に基づいていることを指摘した。

会場の様子

 また、「十二縁起」を表す諸形式の研究過程で、ヤクップ氏は、ハミ出土の『Maitrisimit』(『弥勒会見記』)に見られる「十二縁起」の記述が、従来先行研究で言われていた説とは異なり、中央アジア出土のサンスクリットによる『Nagaropamasūtra』(『城喩経』)とよく一致することを発見し、その本文の比較を行った。これらの仏教術語や引用される仏典の経題は、古代ウイグル仏教の形成期に、古代ウイグル仏教徒を取り巻いていた仏教の状況を反映していたと考えられ、より大きな仏教史的観点からの位置づけを必要とする。なお、古代ウイグル語版本は、これまで特定の文献を対象に研究が行われ、体系的な研究は行なわれてこなかった。特に、印刷技術の観点からの研究はほぼ未開拓であることから、ヤクップ氏は、印刷技術史の中に、これらの資料の存在とその歴史的意義を正確に位置づける作業を行うことの必要性を強調した。講演の最後には、研究成果として、将来における書籍の出版が予告された。

質疑応答の様子

質疑応答
 講演後、参加者を交えて活発な質疑応答が行われた。特に古代ウイグル語文献の編纂者や版本の製作地に関する議論が盛んに行われ、各国に散在するコレクションの調査を協力しながら進めていく必要性が再認識された。