【報告】「『往生要集』における浄土信仰の諸問題」
2024.11.13
龍谷大学大宮キャンパスでは、2024年9月28(土)〜29日(日)の2日間にわたり、第20回国際真宗学会大会が開かれた。初日の28日(土)には、大谷大学名誉教授のロバート・F・ローズ氏による「Some Issues of Pure Land Practice in the Ōjōyōshū(『往生要集』における浄土信仰の諸問題)」と題する公開記念講演が行われた。
本講演では、ローズ氏が長年にわたり研究してきた、平安中期の天台宗の僧である源信が著した『往生要集』を中心に、①本書における密教的な要素の位置づけ、②浄土教者に要求された厳しい修行に対する源信の見解、③貪欲に起因して戒律を破る僧侶に対する源信の見解、という3点のテーマが取り上げられた。
次にローズ氏は、浄土教における厳しい修行に耐えられない行者に対する源信の慈悲深い修行方法について取り上げた。『往生要集』では、行者の機根に応じて複数の行法(阿弥陀仏の観念念仏と称名念仏)が用意されている。上級の行者には、より複雑な観念の行法が提供され、初心者には阿弥陀仏の名前のみを唱えるというシンプルな行法が勧められている。また、修行に専念できない行者には、日常生活の中に念仏を取り入れる習慣が勧められており、行者が日常生活の中でも阿弥陀とつながりを持つことができるような方法が示されている。こうした工夫によって、源信が多様な機根の行者に対応し、修行そのものの複雑さよりも行者の機根に対応することがより重要であると捉えたことが分かる。
続いてローズ氏は、源信が物質的な豊かさを追求して、戒律を破る僧を批判することを取り上げた。源信は僧が適度な禁欲と自制をたもち、最低限の資産に頼り、欲を抑制すべきであると強調した。源信のこうした姿勢は、みずからが属する延暦寺の僧たちによる富と政治的結びつきが、仏教的な道徳を堕落させ始めたことを懸念した結果であったと言える。戒律に関して、源信は両義的な姿勢を示している。源信は僧による戒律違反を批判する一方、いったん出家した僧については功徳を有していることから尊敬を受ける資格があると説いた。このようなバランスをとった姿勢は、『大集経』のような仏典に基づくもので、このことによって仏教徒が道徳心を維持することができると同時に、行者に対して過度に干渉することも避けられると源信が考えていたと指摘した。 最後にローズ氏は、『往生要集』の研究にはまだ多くの未解決の問題が残されていることを指摘し、更なる研究が必要であると述べた。講演の後、参加者を交えた活発な質疑応答が交わされ、盛況のうちにワークショップは終了を迎えた。