【報告「中世真宗における聖教の形成―覚如著作の書写・伝授・集録を通して―」
2024.12.17
龍谷大学大宮キャンパスでは2024年12月6日(日)に「中世真宗における聖教の形成―覚如著作の書写・伝授・集録を通して―」が開かれた。講師は冨島信海氏(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)で、司会進行は本学教授の高田文英氏がつとめた。今回の研究会では、冨島氏が調査を進めている覚如著作の伝授と聖教化について、覚如の周辺人物の動向などを通して紹介した。
まず冨島氏は、本題を覚如著作としたことについて、覚如の著作の大半が門弟たちに書与され、奥書も多く残存するため伝授の過程が把握しやすく、没後まもなく制作された伝記にて集録されているという特徴を指摘する。特に覚如の伝記である『慕帰絵』の作者従覚と『最須敬重絵詞』の作者乗専は、覚如の存命中にも数多くの覚如著作を書写しており、作成した伝記にもそれらの著作をまとめて記述するなど覚如著作の聖教化に大きく貢献した人物として紹介された。また、覚如著作の奥書や『慕帰絵』『最須敬重絵詞』からは、書与や伝授を意識した記述が多く見られ、専修念仏を正しく伝授したとする法然―親鸞―如信の血脈が覚如だけでなく覚如周辺の人物によって構築されていったと述べた。さらに、聖教の伝授を媒介とする後継者への正統化は、示寂した覚如自身にもなされ、その正統化の一端が『慕帰絵』『最須敬重絵詞』における覚如著作の聖教化であったと冨島氏は指摘した。
講演後、参加者を交えて活発な質疑応答が行われた。特に従覚や乗専が何を意識して覚如の伝記を作成したのかという問題について、冨島氏は依然不明な部分の多い本願寺周辺の事情を考慮すべきであると注意した。また、聖教化についても、ある時代に突如聖教化したわけではないため、そのプロセスについても今後検討されるべき課題であることを問題提起した。