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【報告】オランダにおける仏教スピリチュアルケア制度の現状と展開(国際研究部門)

2025.12.19

 2025年11月14日(金)、龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室にて、世界仏教文化研究センター 国際研究部門主催による国際ワークショップ「仏教チャプレンの養成と実践の国際比較研究:オランダにおける「仏教スピリチュアルケア(BSC) 」が開催された。

             講演中のリートフェルト氏、ローゼンダール氏とフェルデン氏

 本ワークショップではオランダにおける仏教スピリチュアルケア制度の現状について、リートフェルト、ローゼンダール、フェルデンの三名による講演内容をもとに概要を整理するものである。高度に世俗化したオランダ社会において、仏教は伝統宗教とは異なる形で受容され、心理学的実践やライフスタイル、治療的介入と結びつきながら広がってきた。仏教徒は少数派である一方、仏教に親近感をもつ人々は多く、複数宗教的な自己理解も一般的である。この社会的背景のもと、2004年頃から刑務所において仏教スピリチュアルケアが導入され、2008年にオランダ仏教連合が政府承認を得たことで、軍隊や医療分野へと制度的に展開した。

 こうした制度の根拠には、宗教・人生観の自由を保障するオランダ憲法第6条がある。受刑者や軍人など閉鎖的環境に置かれた人々が宗教的ケアを受ける権利を確保するため、国家は提供体制を整備する責務を負う。一方で、国家は宗教的中立性を維持し、ケアの内容や方法については宗教団体の自律性が尊重されている。この結果、国家が制度的枠組みと専門基準を保証し、宗教側がケアの質と専門性を担保するという役割分担が成立している。

那須氏(龍谷大学文学部教授)とビーシェーラー氏(アムステルダム自由大学教授)のコメントをする様子

軍においては、2019年に仏教チャプレン制度が承認され、2020年から正式な配置が始まった。仏教チャプレンは宗派的活動に加え、部隊への随行や演習・任務への同行を通じて、兵士の日常的な精神的支援を行っている。マインドフルネスや内省を中心とした実践は、道徳的葛藤、アイデンティティの揺らぎ、PTSDなど、軍務に伴う精神的課題に向き合う手段として用いられている。

レスポンデント:・森田敬史 (龍谷大学 実践真宗学研究科 教授)・打本弘祐 (龍谷大学 農学部 准教授)・ネイサン・ミション(龍谷大学 講師)

 矯正施設においても、仏教スピリチュアルケアは宗教的帰属を問わず提供されており、禅瞑想、マインドフルネス、個別対話などを通じて受刑者のウェルビーイング向上が図られている。長年の実践経験からは、守秘義務と信頼関係がケアの成否を左右する中核であることが強調されている。また、仏教スピリチュアルケア提供者は、大学院レベルの専門教育を受け、菩薩モデルや善知識モデルなどの理論を通じて、ケア提供者自身の人格的成熟と姿勢が重視されている点も特徴的である。

記念撮影

 以上のように、オランダにおける仏教スピリチュアルケアは、公的制度の一部として確立されながらも、仏教のもつ柔軟性と内省的実践を活かし、世俗化した社会に適応している。宗教性と公共性を調和させつつ、個人の経験や苦悩に寄り添い、その人自身の内なる気づきを支えるこの実践は、現代社会におけるスピリチュアルケアの一つの有効なモデルを示している。