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【報告】浄土宗海外開教 ―南米開教区を中心に―(国際研究部門)

2025.12.23

2025年11月8日(土)午後、に「浄土宗海外開教 ―南米開教区を中心に―」と題する公開ワークショップがオンラインで開催された。発表者は田中実マルコス(芳道)氏(佛教大学講師)で、レスポンデントは、北條竜士氏(浄土宗総合研究所研究員)、司会は那須英勝(龍谷大学文学部・教授)が務めた。

 本ワークショップでは、田中氏は、明治から第二次世界大戦の敗戦までの浄土宗の海外開教の歴史を概観したあと、戦後に残された寺院によって再開されたハワイ、北米の開教と、戦後新たに南米開教区における浄土宗の海外伝道活動を中心に研究報告が行われた。

 田中氏の発表の要旨は以下の通りである。明治初期、多くの日本人がより良い生活を求めて海外へ移住した。それに伴い、日本仏教も移民を精神的に支えるため、ハワイ開教区(15)、台湾開教区(32)、朝鮮開教区(48)、樺太開教区(27)、満州開教区(27)、中国開教区(15)、南洋開教区(4)、北米開教区(2)、南米開教区(4)へと広がっていった。しかし、第二次世界大戦の敗戦により、忠魂のために建立されたアジア諸国における浄土宗寺院の多くは、閉鎖を余儀なくされた。【※( )内は寺院数を示す】

 戦後、浄土宗の海外開教寺院として残ったのは、ハワイ開教区(明治27年開設)および北米開教区(昭和11年開設)である。これに加え、戦後新たに南米開教区(昭和29年開設)が設立され、さらにオーストラリアおよびフランスの開教地においても、現在まで海外布教活動が継続されている。

 南米ブラジルにおける浄土宗の開教は、特命開教使である長谷川良信師がブラジルに渡航し、現地視察の結果、寺院建立を決断したことに始まる。昭和29年11月、ブラジル政府より宗教活動の認可を得て「南米浄土宗教団」を設立し、翌年に一時帰国した。昭和32年4月には、3名の同行者とともに再びブラジルへ渡航し、これをもってブラジルにおける浄土宗開教が本格的に開始された。その後、サンパウロ市内、サンパウロ州イビウーナ市、パラナ州マリンガ市、パラナ州クリチバ市に寺院が建立された。4カ寺目となるクリチバ日伯寺は、日本から約70名の僧侶が参集し、令和7年6月8日に落慶式が厳修された。

 現在、日本人移民社会はすでに五世・六世の世代を迎え、言語的課題が顕著となっている。さらに、各国の文化的背景や社会環境の違いにより、寺院の形態や機能にも変化が生じている点が注目される。それにもかかわらず、海外の日系人社会においては、先祖のルーツを尊重し、文化・習慣・宗教を次世代へ継承しようとする姿勢が見られる。加えて、非日系の人々の中にも日本文化や仏教に関心を寄せ、僧侶を志す者が現れるなど、浄土宗開教の国際的展開は新たな段階を迎えつつある。

 田中氏による発表の後、北條竜士氏がレスポンデントとしてコメントを述べた。北條氏のコメントは以下の通りである。田中氏の講義では浄土宗の開教区についての歴史と現状についてとても興味深く拝聴した。また個人的には戦前に私の祖父が浄土宗樺太教区の開教使として現地へ赴任していたこともあり、関心を持ちながら拝聴した。また講義内容について質問をさせていただいた。例えば、戦前の浄土宗の海外開教における国家神道の影響や、現地人に対する教化活動の方法、開教区の檀信徒たちの世代が変わっていき、先祖供養や仏教信仰に対する意識が変化する中で、これからの開教区はどうあるべきかなど、様々な点について質問をさせていただいた。そして最後のコメントとして、日本と同様、開教区においても檀信徒や一般の人たちの世代が変わり、信仰や先祖に対する意識が変化していく中で、今後、宗内や開教区としてどうあるべきかについて考えていかなければならないということを述べた。

 北條氏のコメントの後、講師・コメンテーターに加えて、参加者によるディスカッションが行われた。ブラジルにおける浄土宗開教活動の状況についての質疑応答に加え、浄土真宗の海外開教の現状を比較したコメントなど、熱心な討論が行われた。また本ワークショップの締めくくりとして、広く浄土教思想の海外伝播という視点からの共同研究の必要性が今後の課題として提示された。

※この公開ワークショップは、世界仏教文化研究センター国際研究部門と国際真宗学会(International Association of Shin Buddhist Studies 日本支部)が共同で企画・開催したものです。