【報告】研究セミナー「中国唯識学派の浄土観―玄奘訳に対する靖邁の解釈と『無量寿経論』の引用―」【世界仏教文化研究センター基礎部門】
2026.02.18
2026年1月28日(水)、龍谷大学大宮キャンパスにて「中国唯識学派の浄土観―玄奘訳に対する靖邁の解釈と『無量寿経論』の引用―」と題する研究セミナーが開催された。講演者は本学経営学部教授の長谷川岳史氏、司会・進行を本学非常勤講師の都河陽介、コメンテーターを本学非常勤講師の上野隆平がつとめた。本セミナーでは、玄奘訳唯識文献における仏身・仏土理解の枠組みを踏まえつつ、石山寺蔵写本として伝わる靖邁撰『仏地経論疏』および靖邁『称讃浄土経疏』逸文の検討を通して、中国唯識学派が浄土をいかに語り、またその際に世親『無量寿経論』をどのような根拠づけとして引用するのかが論じられた。

長谷川氏はまず、玄奘訳の『仏地経論』・『成唯識論』等に見られる仏身論の基本構造(自性身/自受用身/他受用身/変化身等)を整理し、仏身理解が仏土理解(仏国土の成立や把握の仕方)へ接続していく見取り図を提示した。そのうえで、玄奘訳典籍群の位置づけや、訳出過程に関する先行議論を参照しつつ、唯識教学の体系化が後代の注釈書類に与えた影響を確認した。次に、石山寺蔵の靖邁撰『仏地経論疏』写本の紹介へ移り、先行の報告・翻刻研究を整理しながら、靖邁の略伝と著作伝承が概観された。ここでは、靖邁が玄奘門下の学系に連なる注釈僧として位置づけられること、また『仏地経論疏』以外にも複数の著作が伝えられる一方で、現存状況や同定には課題が残ることが示された。

そのうえで長谷川氏は、靖邁撰『仏地経論疏』において引用される『無量寿経論』の具体例を提示し、「女人及根缺 二乗種不生」等が取り上げられた。ここから、唯識系の注釈文脈の中で浄土論が参照され、経典解釈の支点として機能していることが明確に示された。後半では、靖邁『称讃浄土経疏』の逸文が集中的に検討され、極楽世界の荘厳(宝池・八功徳水・香気・天華等)の叙述を現状門下がどのような概念として読み解こうとしているか説明された。とりわけ、いわゆる女人・根欠・二乗不生という言葉を用いて、単純な排斥対象としてではなく、五性各別・不定性等の教理的整理や、浄土世界に存在する「大衆」の成り立ちを説明していく注釈の方向性が示唆された。

講演後の質疑では、逸文資料の性格上、引用の連続性や章段構成の復元には限界があるため、資料の同定作業をいかに精緻化するかが、今後の研究の方法論として共有された。加えて、玄奘訳浄土経典の受容史(後代の引用・流通)に関する論点も、今後の展開として視野に入ることが確認された。
