【報告】国際シンポジウム「今、顕密仏教に問う—日本仏教の創成過程から何を汲みとれるか—」【世界仏教文化研究センター】
2026.03.23
2026年3月17日(火)、龍谷大学大宮学舎にて「今、顕密仏教に問う—日本仏教の創成過程から何を汲みとれるか—」と題した国際シンポジウムが開催された。このシンポジウムは、日本仏教の成立過程で重要な枠組みとされる「顕密仏教」を、歴史的転換点として再検討することを目的としている。天台・真言の教学や儀礼、神祇信仰などとの関係を多角的に考察し、その意義を確認するとともに、現代社会の課題に照らして顕密仏教の可能性が議論された。
午前中には、師茂樹氏(早稲田大学文学学術院教授)・上島享氏(京都大学文学研究科教授)・阿部泰郎氏(本学文学部客員教授)による研究発表が行われた。
師茂樹氏による「平安初期仏教における知/権力構造の変化:“顕密”体制の萌芽として」という報告は、奈良時代末期から平安時代初期にかけての仏教における「知」と権力との関係の変化に注目し、教理的議論が正当な知の枠組みをどのように規定したのかを検討するものである。因明や宗派間論争、最澄や空海の思想を手がかりに、諸宗併存体制や顕密体制の萌芽が形成される過程の一端が明らかにされた。
上島享氏による「「顕密」仏教を考える」という報告は、黒田俊雄の顕密体制論の意義を評価しつつ、その枠組みに依拠し過ぎる見方を再検討し、「顕密」仏教の歴史的展開を捉え直す試みである。顕密仏教は、古代に成立し中世前期の中心をなした後も日本仏教の基層として存続し、新たな仏教と重層しながら展開したと結論づけた。
阿部泰郎氏による「慈円における顕密仏教の再構築」という報告は、中世の天台僧である慈円の活動に焦点を当て、顕密仏教という概念の成立と展開を、思想・儀礼・宗教文化の広がりの中で捉え直す試みである。慈円は、王法と仏法の相依関係を基盤に、神祇信仰や太子信仰を含む広い宗教世界を統合し、乱世の現実に応答する顕密の実践を展開した。その思想と活動は、日本仏教の枠組みを再編して国家と宗教を結びつける構想を提示した点に、大きな意義があるという。
午後には、午前中の研究発表を受けて、ハーバード大学東アジア言語文化学部教授で同ライシャワー日本研究所日本宗教担当教授でもある阿部龍一氏による基調講演「空海の顕密仏教を再考する」が行われた。この講演では、空海の顕密仏教を従来の真言宗による後代的な解釈から切り離し、空海自身の実践と思想に即して再検討する試みがなされた。空海は、中国で学んだ「金剛乗」を基盤に、観音信仰や法華・浄土信仰など当時広く受け入れられていた信仰と結びつけ、階層を超えて民衆に仏教を広めた点が重視される。また、顕教と密教を対立的な関係ではなく、相補的な関係として理解し、経典は読み方によって顕密の両面を持つと空海が考えたことが指摘された。さらに、その実践は、体制仏教だけでなく民衆文化や宗派横断的な宗教活動の中でも受容され、日本仏教の展開に影響を与えたことが論じられた。
講演後、まず師茂樹氏・上島享氏・阿部泰郎氏・阿部龍一氏に加え、そして道元徹心氏(本学先端理工学部教授)の5名による座談会が行われた。その成果を受けて、さらにコメンテーターとして横内裕人氏(京都府立大学文学部教授)・藤井淳氏(駒澤大学仏教学部教授)を加えて総合座談会が開かれ、濃厚かつ有意義な意見交換が行われた。
