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【報告】特別講演会「宗教文化遺産学の挑戦」

2023.04.10

 2023年3月26日(日)14:00~17:00、龍谷大学世界仏教文化研究センター主催、名古屋大学人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター共催のもと、特別講演会「宗教文化遺産学の挑戦」を、Youtube配信によって、以下のプログラムで開催した(講演会の動画は、ここからご覧ください。2024年3月末まで公開する予定)。

 入澤学長の開会挨拶に次ぎ、阿部泰郎教授が本講演会の趣旨説明を行った。

                          入澤 氏

 まず阿部氏は、名古屋大学人文学研究科におけるテクスト学への挑戦や実践活動を顧みた。名古屋大学人文学研究科が大学院重点化に伴い、文学研究の基幹であるテクスト学の総合的な研究を推進、かつその国際的拠点を形成するために、21世紀COEプログラム・グローバルCOEプログラムという拠点形成のための研究の大きな支援を獲て、テクスト学研究の中心的拠点形成を推進してきた。この方向を持続発展させるために、研究拠点として人類文化遺産テクスト学研究センター(CHT)を2013年から設立して現在に至っている。センター運営に関して、さまざまな科研費をはじめとした外部資金による宗教テクスト文化遺産研究という方向で、研究支援を獲得し、かつは拠点形成事業として、国際的に研究拠点を形成すべく、Core-to-Coreプログラムによって「テクスト学による宗教遺産の普遍的価値創成学術共同体の構築」を目指し、さらに名古屋大学学内においても、宗教テクスト文化遺産学を構築するためのユニットを構成し、また近本謙介教授によって「文化遺産と交流史のアジア共創研究」というユーラシア全体を見据えた大きなプロジェクトを現在推進中である。センターの構成は、アーカイヴス部門(近本謙介教授)・物質文化部門(周藤芳幸教授)・視覚文化部門(木俣元一教授)・文化人類学部門(佐々木重洋教授)の4部門からなる。4部門の連携により、多角的、多元的かつ総合的な先端人文学研究を推進している。同時にCore-to-Coreプログラムによって支えられた多面的な国際協働研究をあらゆる次元で行うということを目指して実現している。それを日本国内の中核的な研究機関とも常に協働して行っている。その一環として、例えば、アメリカのコロンビア大学との持続的な「境界」研究をはじめとして、世界各国の研究機関と常に宗教遺産テクスト学をめぐっての共同研究を展開している。その発信を、ジャーナルあるいは論集を中心に、様々な先端研究の成果を発信しているのみならず、基盤的な資料紹介のための資料集を構築していくことも大きな任務であるという。終わりに、バーミヤン大仏調査・研究の継承を例に取り上げて、名古屋大学と龍谷大学との歴史的にも深いつながりを振り返りつつ、人類が現在直面している文化社会における大きな危機を、我々は強く意識しながら過去に問いかけ、また現在において取り組み、未来に発信していくメッセージを宗教遺産テクスト学というテーマのもとに展開しようと、研究方向を提示した。現在、龍谷大学で宗教文化遺産のアーカイヴス化による研究基盤のプラットフォームを作り出そうという動きは、1個の組織だけではなく、横断的にみんなで協働し、その成果の共有を目指すものである。このプロジェクトに取り組むことを通して、相互理解知を共有していくという目標に向けて手を携えていこうということが、今回の特別講演会の大きなメッセージである。

                          阿部 氏

 ついで、木俣元一氏が「宗教遺産としての中世キリスト教美術」と題して講演を行った。宗教、そして遺産、どちらも聖なるものを極度に求めていき、両者の関係はどのようにあるのか、そして過去・現在・未来社会の誰がそれを受け継ぐのか、また遺産はこの現代世界に存在する様々な課題や、矛盾を映し出す鏡のようなものであるという最新の研究を踏まえた理論的な展望を述べた。特に、木俣氏の専門分野である、フランス中世キリスト教を代表する遺産であるシャルトル大聖堂において現代になされた修復をめぐる事態が投げかける問題が、その端的な事例として紹介された。

                          木俣 氏

 また、周藤芳幸氏は「古代ギリシアの宗教文化遺産と文化的記憶―パウサニアスの『ギリシア案内記』を中心に―」と題して、文化的記憶という概念に注目しながら、知の伝達形態とはいかなるものか、その手がかりとしての宗教文化遺産と文化的記憶との関係や、それを紐解く手法を、パウサニアスの『ギリシア案内記』の解読という具体的な事例によって、講演を行った。特に、このテクストにおける2つの位相、つまり実地見聞記述的な次元と神話伝承や挿話によって想起される「語り」の水準の動的関係性の指摘が、分析の焦点となった。

                          周藤 氏

 休憩を挟んで、阿部氏は近本謙介氏に代わり、「宗教遺産テクスト学の創成―中世寺院の知のネットワーク―」と題して講演を行った。本講演会のテーマでもある宗教遺産学への挑戦そのものについて、大須観音真福寺の蔵書と東大寺との関連性や、京都青蓮院門跡の吉水蔵聖教と慈円の著作を中心とした調査の報告、また地方における会津と中央寺院とのネットワークの形成をめぐる話を紹介した。そして、宗教遺産テクスト学が単なる学者の発見にとどまらず、それを調査復元し、また情報公開、デジタル化していくことによって新たな知の再生を目指すという目標を述べた。それをもとに今後、龍谷大学を中心として、新たなアーカイブ・プラットフォームの構築に取り組む実践を具体例(龍谷ミュージアム春季特別展「真宗と聖徳太子」)をもって説明し、話を締めくくった。

                         シラネ 氏

 続いて、コメンテーターとして、ハルオ・シラネ氏が登壇し、環境人文学の立場からキーワード「災害」、そして「慈円」「中世仏教」「遺産」、また広い意味でのテクスト学、世界への発信性や教育の重要性を巡って、3名の講演者の講演内容に沿って、それぞれに対して提言を行った。

                      パネルディスカッション

 最後に、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われ、入澤学長の総括として、人文学の重要性を今こそ認識し支えるべきであるという力強いメッセージをもって、講演会は終了を迎えた。

                          記念撮影

【参照】
【アーカイブ配信中】「テクスト学による宗教文化遺産の普遍的価値創成学術共同体の構築」 オンライン国際研究集会 – 名古屋大学 高等研究院 (nagoya-u.ac.jp)