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【報告】The Ambiguous Status of the Mahāmegha sūtra as a Buddha-nature text

2023.04.25

2023年4月8日(土)に、龍谷大学大宮キャンパスでは、2021年度沼⽥智秀仏教書籍優秀賞の受賞者であるクリストファー V. ジョーンズ(Dr. Christopher V Jones)ケンブリッジ大学、セルウィン・カレッジ教授(Selwyn College, University of Cambridge)によるワークショップが行われた。ワークショップのテーマは “The Ambiguous Status of the Mahāmeghasūtra as a Buddha-nature text”(「「仏性」を論じる仏典として『大雲経』(Mahāmeghasūtra)の曖昧さについて」)であった。司会・進行は本学教授の那須英勝氏が担当した。

那須氏

 本ワークショップでは、Jones氏が2020年に出版された単著The Buddhist Self: On Tathagatagarbha and Atman(University of Hawai’i Press)以後、主に『大雲経』(Mahāmeghasūtra)を中心に取り組んでいる新しい研究について講演された。高崎直道氏やMichael Radich氏などの先行研究では「仏性の概念を理解するために『大雲経』が重要なテキストである」とされてきたが、氏はそうした従来の主張は間違いではないものの、最新の研究動向から言えば、必ずしもそうではない場合もあるという。それ故に氏が、仏性を理解する上で『大雲経』というテキストの「曖昧な立場」に着目したのである。

 まず氏は、古代インドにおける初期仏教の教えの中で「仏性」という概念について述べた上で、次にこの概念は「如来蔵」(tathāgatagarbha)思想とどの点において異なっているのか、文献を提示しながら紹介した。これらの2つの表現は類似しているが、同じではないことを注意すべきである。そして氏は、Mahāmeghasūtraに触れながら、このテキストにおける如来蔵への言及は、その他のテキストとどのように関係しているのかについて説明した。

ジョーンズ氏

 最後に氏は、5世紀頃行われたとされる『大雲経』の漢訳版を取り上げて、このテキストは、その翻訳者である曇無讖(Dharmakṣema)によってどのように内容的な変更がなされたのか、具体例を提示しながら説明した。『大雲経』の漢訳とチベット語訳は、構造的に類似しつつも、細かいところでは異なっているため、それぞれが別々のルートで『大雲経』を受容したことが看取できる。なぜなら、曇無讖の漢訳版では、訳者による追加されたと思われる表現や描写は散見されるからである。内容的に見れば、漢訳版は『大乗涅槃経』と近いが、一方でチベット語訳版は仏性や如来蔵思想を十分に論じていない。こうした中、これまで存在が知られていなかったサンスクリット語版『大雲経』が近年発見され、漢訳、チベット語訳とサンスクリット語を比較検討できるようになった。

質疑応答の様子

 そこで、漢訳の内容を他の2種類テキストと比較検討した結果、漢訳版にある内容の一部は、他の2種類のテキストに存在しないことが確認できた。氏によれば、これは曇無讖によって追加された内容であるとしか考えられない。要するに、漢訳『大雲経』は、インドにおける特定の原典から直訳されたのではなく、曇無讖によって複数のテキストからアダプテーション(adaptation)され、編集されたテキストであった。特に『大雲経』に説かれたような仏性論は、チベット語訳やサンスクリット語には見られないからである。それ故に、先行研究で主張されてきた『大雲経』と「如来蔵」思想の関連性は不正確である可能性は高いと思われる。

 Jones氏の発表の後、那須氏の司会のもとで参加者から数多くの質疑がなされ、活発な議論が交わされ、ワークショップは終了を迎えた。