【報告】聖徳太子絵解きフォーラム——太子絵伝と絵解きの継承
2023.05.02
2023年4月30日(日)、龍谷ミュージアム春季特別展 親鸞聖人御生誕850年・立教開宗800年記念「真宗と聖徳太子」展の関連イベントとして、「聖徳太子絵解きフォーラム——太子絵伝と絵解きの継承」が開催された。
日本の仏教の歴史とともに展開してきた聖徳太子への信仰と伝承は、その生涯をあらわした太子絵伝というメディアによって説き広められた。この太子絵伝絵解きは、四天王寺の絵堂に始まり、浄土真宗に受け継がれて、現在もなお生き続けている。
今回の絵解きフォーラムでは、この聖徳太子絵伝絵解きに焦点を当てて、阿部泰郎氏(龍谷大学教授)の司会の下、四天王寺をはじめ、現役で活躍されている4名の講師による絵解き実演の後、石井公成駒澤大学名誉教授により、「『日本書紀』の守屋合戦こそが絵解きの前段階?」と題する特別講演が行われた。
前半の絵解き実演では、主に本證寺聖徳太子絵伝(重要文化財)の絵相を用いて、太子信仰と太子絵伝絵解きの原点である四天王寺で復活再生された絵堂のための絵解きをはじめとして、越中井波別院の瑞泉寺で江戸時代から連綿と続く、真宗の太子伝絵解きの伝統を守る絵解きが紹介され、さらに愛知で仏教絵解きの伝統芸を現代に活かす試みを多彩に繰り広げている三河すーぱー絵解き座の新たな絵解きが披露された。四天王寺 瀧藤康教師による絵解きは、平易な言葉遣いや抑揚をつけた語り口調で今風のパフォーマンスを演出したのに対して、南砺 真教寺 齊籐優華師・井波 妙蓮寺 竹部俊惠師による絵解きは、真宗色の濃い伝統的なもので、聴衆から「ナンマンダブ ナンマンダブ」という受け念仏を呼ぶほど情念のこもった演技であった。一方、三河すーぱー絵解き座座主である梛野明仁師による絵解きは、琵琶の演奏を伴う語りで、聴衆にインパクトを与えた。
後半の特別「口演」において、石井氏は、『日本書紀』崇峻天皇即位前紀用明天皇二年(587)七月条、守屋合戦のくだりにおける、物部守屋死後、その従者である捕鳥部万の奮戦記事に注目し、このような四天王寺建立(前後の文脈)と一見、関係しなさそうな事柄がなぜ正史に取り込まれたのかについて取り上げた。結論から言うと、天皇側に敗れた守屋側の武勇伝は、河内国周辺にいた守屋を支持していた人々のために、琵琶法師のような芸能者たちによって、聖徳太子の伝承とともに語り伝えられていたのではないかという。またこのような伝承が、『日本書紀』という正史に取り込まれた際に、漢訳仏典から用語を借りつつ、むりやりに漢文調に書き直されたため、不自然な漢文表現が散見するようになったのだとする。