【報告】Travel Writing and the Reconstruction of Buddhism: The case of the Mahabodhi Journal (1909-1942)
2023.08.30
2023年6月21日(水)に、龍谷大学大宮キャンパスでは、DI COSTANZO Thierry(ストラスブール大学准教授)による講演会が行われた。講演会のテーマは “Travel writing and the Reconstruction of Buddhism: The case of the Mahabodhi Journal (1909-1942)”(「紀行文学と仏教の再構築:Mahabodhi Journal (1909-1942)を中心に」)であった。司会・進行は本学教授の嵩 満也氏が担当した。本講演会の概要は以下の通りである。
まずThierry氏は、ジョセフ・ナイのソフトパワー論を提示し、この枠組みは20世紀前半のアジアにおける仏教を理解する上で重要な役割を果たすと述べた。アジアにおける帝国支配をめぐる日本とイギリスの競争について考えるとき、とりわけ仏教のような宗教的な様相は、どのようにソフトパワーが利用されたのかを理解するために重要な意義を持っている。それと同時に、大英帝国の歴史を考察する際、南アジアにおけるヒンドゥー教や仏教などと共産主義思想がどのように交差したのか、それについても考察する必要がある。なぜなら、すでに先行研究で指摘されているように、この時期のインドにおけるヒンドゥー・ナショナリズム、あるいは仏教ナショナリズムの台頭は、20世紀初期のインドにおける共産主義思想の繁栄と深く結びついているからである。
次に20世紀初頭の南アジア地域で刊行された雑誌などの刊行物が、仏教の復興と伝道活動をどのように支えていたのかということが紹介された。とりわけThierry氏は、有力な雑誌であるMahabodhi Journal(『マハーボディ・ジャーナル』)を取り上げ、この雑誌が仏教関係者にとってどのように重要なソフトパワーのツールであったのかについて述べた。この雑誌には様々なジャンルの内容が掲載されていたが、そのなかで特に仏教と深く関わっていた紀行文が特徴的なジャンルの一つであった。その当時、紀行文はアジアのみならず全世界で流行っており、とりわけアジアでは、仏教を含む宗教的なアイデンティティ形成と密接に関係していた。そこで氏は、『マハーボディ・ジャーナル』から具体例を示しながら、いつ頃から、どのような人物が、いかなる政治的な理由で、仏教的な紀行文を寄稿するようになったのかについて詳細に述べた。
初期頃の『マハーボディ・ジャーナル』に掲載された紀行文の中で、ヒンディー語における旅行記の父として知られるRahul Sankrityayan(ラーフル・サンクリティヤム、1893-1963)というインド人作家が代表的な人物であったと言える。サンクリティヤムは、20世紀初期にチベット、日本、中国など仏教と深い関係のある国々を訪れ、その体験をヒンディー語で書き残している。彼のそうした紀行文は『マハーボディ・ジャーナル』でも紹介され、世界中で注目されたのである。Thierry氏は、サンクリティヤムのように、仏教を中心に書かれた紀行文は、後に南アジアの国々の外交政策にも大きな影響を与えたと結論づける。講演の後、現地およびオンライン参加者から多義にわたる質疑と議論が交わされる中で講演会は終了を迎えた。