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【報告】国際研究セミナー「仏教におけるモノツクリの文化遺産——四天王寺の技芸文化をめぐって」

2023.12.26

 2023年12月22日(金)、「仏教におけるモノツクリの文化遺産-四天王寺の技芸文化をめぐって」と題して国際研究セミナーを開催した。ファビオ・ランベッリ氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校宗教学部教授)と、エレン・ヴァンフーテム氏(九州大学准教授)より、日本の仏教文化を多面的な視野から考察した講演が行われた。

 始めに、コーディネーターを勤めた阿部泰郎氏(龍谷大学教授・世界仏教文化研究センター兼任研究員)より、仏教が寺院や仏像を始め、あらゆる文化創造の母胎として働きつづける姿を国際的に展望する、という今回のセミナーの開催目的が語られた。

    コーディネーターの阿部泰郎氏

 まずファビオ・ランベッリ氏より”Buddhism, Labor, and Traditional Professions: Some General Consideration”(「仏教、労働、伝統職能-総合的な考察の試み」)と題して講演が行われた。仏教は教義や儀礼という視点から考察されてきたが、ファビオ氏は仏教を大きな文化システムとして見ることを提唱している。何かを作り出す物質的な労働、聖なる共同体であるサンガの運営、職人たちのさまざまな技芸など、そのシステムの中には実に多様な労働が存在する。この労働が仏教を作り、そして運び、生活文化を生み出してきたのである。その労働が生み出すさまざまなモノ(object)にも仏教的な意味が見出された。そして、そのようなモノを生み出す労働、すなわち仏教のために働くことで労働者たちは功徳を得た。このようにして仏教という文化システムの中で、あらゆる事柄に対して仏教的な意味が付与されていったのである。

 ファビオ氏は一例として仏像の制作過程を挙げた。仏像の制作とは、ただ像を作る過程だけではなく、寄付をする者や原材料の調達を行う者、マーケティング、製作後の修復など、さまざまな職人と、彼らの技芸がその過程に含まれているのである。これらの労働は仏教的に見ると、すべてつながっているのである。

 またファビオ氏は儀礼について、そこにある秘密性についても言及した。「鴨胸板反りの秘事」を例に挙げ、職人たちの間だけで共有・継承されていた技芸そのものに聖なるものとしての一面が見られるという。儀礼とは、あの世とこの世をつなぐ大きな役割を果たすが、職人たちの労働に宗教的な側面が見出されるのである。

                ファビオ・ランベッリ氏

 仏教的なモノや知識をいったい誰が伝えてきたのだろうか。その記録は残されていないが、実にさまざまな人たちが運んできたのだろう、とファビオ氏は語った。仏教が地域化される以前の、地域性を超えた共通システムを見ることができれば、さまざまな生きた仏教の形を復元できるのではないだろうか。まさに仏教文化を世界的な視野をもって眺めるという氏の提案が、講演を通して示された。

                会場のようす

 続いてエレン・ヴァンフーテム氏より”The Construction of Temples and Government Buildings in the Eight Century”(「8世紀における仏教寺院と政府関係建築の建設」)と題して講演が行われた。エレン氏が専門とする古代の宮殿造営と運営システムについて、建築様式や木簡といったさまざまな点からの考察が語られた。

 日本に仏教が伝播する6世紀以前、日本の建築様式は茅葺き屋根など実に多様なものであった。仏教とともに中国的建築様式が伝えられると、その影響を受けた建築が登場し始めた。また都の移動にともなって、宮殿の造営は根本的に変化していったのである。奈良時代には巨大な政府の造営システムが構築され、さまざまな部署に分かれて宮殿や建築の造営が行われるようになった。また建築の細部に注目すれば、たとえば同じ瓦が再利用されているという点から、複数の寺院が同時並行で造られていたことが見えてくる。建築の様式の変化、多くの人間が携わる大きなシステム、そして建築物のごく一部にいたるまで、当時の宮殿造営のようすを知る手掛かりとなるのである。

            エレン・ヴァンフーテム氏

 またエレン氏は、宮殿造営に地方の人々が関わっていたが、特に注目すべき地域が飛騨であると述べた。賦役令として、飛騨国から決められた数の職人(匠丁)を税として納めることを求めたという記録が残っている。また彼らは貴賤を問わずに集められていた。高い技術力を持っていた彼らは「飛騨の匠」という伝説として、『万葉集』や葛飾北斎の絵にも伝えられている。  

 古代の宮殿造営システムは、実にさまざまな人々が関わり、多くの部門を抱えて複雑に構築されていた。そのシステムを知るために瓦や木簡といった資料も重要である、と語られた。また、そのシステムは中心部だけでなく、その周辺の地域も巻き込んだものであった。「飛騨の匠」はそれをよく示す事例と言えるだろう。エレン氏によって、さまざまな視点から古代の仏教寺院と国家的な宮殿造営について立体的に示された。

           コメンテーターの三谷真澄氏

 講演後、コメンテーターである三谷真澄氏(龍谷大学教授・世界仏教文化研究センター基礎研究部門長)より、儀礼空間の創出という点からコメントがなされた。三谷氏は宗教儀礼には「帰依としての儀礼」と「機縁としての儀礼」があり、双方ともその儀礼をおこなう「場」としての宗教儀礼空間が必要であり、それを創出するのが職能集団であると述べた。また、それらの職能集団は現代にも生きていることを、具体例をもって示した。寺院のような宗教空間は職能集団や、さまざまな労働によって作り出されている。儀礼を行うためには、まずその空間を創出することが重要であると感じられた講演であったと三谷氏より語られ、本セミナーは締め括られた。

                 記念写真