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【報告】調査報告会「石山寺所蔵『浄土論』調査報告—『浄土論』諸本との関係を中心に—」

2024.01.22

2024年1月20日(土)、「石山寺所蔵『浄土論』調査報告—『浄土論』諸本との関係を中心に—」と題して、「真宗聖教の文献学的研究」プロジェクトの調査結果について、辻本俊郎氏(世界仏教研究センター 客員研究員)より報告された。

まず司会の都河陽介氏(龍谷大学講師)より本報告会の趣旨が説明された。本プロジェクトは世界仏教文化研究センターの基礎研究部門特定公募研究に採択されたものである。浄土真宗において重視される、親鸞以前の教理史を伝える「七祖聖教」について、それら文献が形成された時点での姿を、テキストクリティークを通して探り、より厳密に文献を理解することを目的としている。特に世親『浄土論』に焦点を当て、校訂テキストおよび訳注の作成を行ってきたが、作成にあたっては多様な写本を回収する作業が必要不可欠であったという。中でも日本の寺院に所蔵されている古写本は重要であり、その中から石山寺に所蔵される『浄土論』が取り上げられた。

              司会の都河氏

報告の冒頭では、辻本氏から『浄土論』研究に関わるようになった経緯について、学生時代の思い出とともに語られた。師の指導のもとで、複数の版本をコピーし、ハサミとノリで切り貼りして対照させ、異なる部分にマーカーを引いてみると、たくさんの相違点があることに気がついたという。たとえば『浄土論』の『論註』について親鸞加点本と高麗版を対照させてみると、驚くべきことに200箇所近くの相違が確認される。本報告会の中では、二つの文字の間での入れ替わりや、改行の位置といった多岐にわたる相違点が、豊富な具体例をもって示された。

               辻本氏

そして石山寺での古写本に関する調査結果が報告された。古写本は形式が巻子本から折本へと修正された形跡が見られ、そのせいか半端に文が切られ、「校了」と記されていた。また古写本と初版本の対照作業について、計23もの具体例とともに報告された。辻本氏は石山寺の古写本について、氏が分類した世親『浄土論』テキストの八つの系統のどこにも当てはまらず、さまざまな系統が混じり合ったものであると語った。この古写本は『浄土論』と『論註』の折衷型と言うことができ、新たな分類を立てるべき全く新しいものであると指摘した。さらに中国や韓国における『浄土論』からの引用を見ても、この古写本に合致するものが見当たらない。石山寺の古写本はいったい何を参照して作成されたものなのか、という大きな問題も浮上した。

             フロアのようす

辻本氏からの報告後、フロアとの質疑応答がおこなわれた。石山寺の古写本の制作背景が不明であるがゆえに、さまざまな事態を想定する余地が残されている。氏の精緻な分析に質問が寄せられ、『浄土論』テキストに関する理解が深められた。また、氏とフロアの間で、制作背景が明らかでない石山寺の古写本に関して多くの可能性が飛び交い、未知のテキストについて想像が広げられた。題を同じくするテキストが書写され、伝えられていく中でさまざまな相違点が生まれた。本報告会では、その伝播過程に見られる、あるいは想定される歴史的意義について活発な議論がおこなわれた。

                 記念写真