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【報告】2022年度沼⽥智秀仏教書籍優秀賞受賞記念講演会

2024.02.28

2024年2月20日(火)に、龍谷大学大宮キャンパスにおいて、2022年度沼田智秀仏教書籍優秀賞の受賞者であるジョンS.ストロング氏(Dr. John S. Strong、チャールズA.ダナ教授、ベイツ大学)による受賞記念講演会が行われた。講題は “The Portuguese Discovery of Buddhism and the Changing Identity of a Sri Lankan Tooth Relic” (「ポルトガル人による仏教の発見と変化するスリランカ仏歯のアイデンティティ」)であった。

那須氏

 ストロング氏は、西洋のキリスト教徒であった初期ポルトガル植民者たちが、16世紀初頭にスリランカの仏牙舎利とどのように遭遇し、いかなる態度を持ったのか、そしてそうした態度がどのように変遷したのかについて講演した。司会・進行は本学教授の那須英勝氏が担当した。以下、本講演会で話された概略である。

Strong氏

 1560年、ポルトガル人がスリランカのジャフナにあった釈迦の歯とされた仏舎利を略奪した。後に植民地の副王であったドン・コンスタンチノは、この歯を戦利品として売り出そうとするが、結局のところカトリック教会の圧力によって実現できなかった。カトリック教会は、その歯が偶像(悪魔の歯)であるとして破壊を命じた。ところが、破壊されて終わるはずの仏舎利の物語は意外な展開を見せる。この歯は時にはサルの歯として、時にはインドの猿神であるハヌマーンの歯として、あるいは仏陀の遺物として生き続けるのである。

 ストロング氏は、こうした様相を「異なるアイデンティティー」と名付ける。たとえ物質として破壊されても、仏陀の遺物として意味を持って時に姿を変えて生き続ける仏舎利の物語は、ポルトガル人が仏教についてより明確な理解にいたる道筋を示したという。

Strong氏

 ところで、このような物語が誕生したのは16世紀が初めてではない。注意されるのは、13世紀頃から伝わるスリランカの物語「歯の年代記」である。これによれば、仏牙舎利がスリランカに届く前に、非仏教徒であったインドのパンドゥ王によって略奪されたという。そして、パンドゥ王が仏牙舎利を破壊しようと火の中に投げ入れ、鉄床においてハンマーを打ち付けたにもかかわらず、なお壊れなかったという。そこで今度は仏牙舎利を地面に埋めて象に踏ませたところ、蓮の花が咲き、中から仏牙舎利が現れたという。

質疑応答の様子

 つまり、ポルトガル副王のドン・コンスタンチノによる行為―仏牙舎利を焼いたり、叩き壊したり、水にしずめたりすることなど―は、既にパンドゥ王によって試されていたのである。仏教では、真の仏舎利は破壊できないものとされる。それを強く信じるのがスリランカ人である。このためスリランカ人は、ポルトガル人が「仏陀の歯」を破壊したという話を聞いても信じようとしない。なぜなら「仏陀の歯」を破壊する試みは既にインドで行われており、成功しなかったからである。

 本講演会は終始にわたり広い見地から質疑や議論が交わされ、盛況のうちに終了を迎えた。