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【報告】「荘厳経論と大乗荘厳経論」

2024.03.14

2024年2月16日(金)、松田和信氏(佛教大学教授)より「荘厳経論と大乗荘厳経論」と題して講演が行われた。松田氏は近年、『荘厳経論』(Sūtrālaṃkāra)の研究に精力的に取り組んでいる。『荘厳経論』は紀元1-2世紀に活躍したアシュヴァゴーシャ(Aśvaghoṣa, 馬鳴)によって著されたものであるが、テキストは現存しておらず、その存在もほとんど知られていなかった。講演会では明らかになりつつある『荘厳経論』について、タイトルを同じくする『大乗荘厳経論』(Mahāyānasūtrālaṃkāra)と合わせて語られた。

            松田 和信氏

『荘厳経論』はカーヴィヤ調の韻文で著された阿含経典注釈あるいは解釈論であったと推測される。『荘厳経論』のテキストは現存しないが、Sūtrālaṃkāraという名前が韻律書に現れる例や、「アシュヴァゴーシャの荘厳経論」からと明記された引用偈の例が確認されている。人口に膾炙した存在であるアシュヴァゴーシャ作品は仏教内外を問わず強い影響力を持ち、彼の偈が広く知れわたっていたと考えられるという。

またsūtrālaṃkāraという語は瑜伽論摂決択分の写本において、「如来によって説かれた諸経典の意味を如実に開示する」と定義されている。そこで挙げられる五つの比喩は『大乗荘厳経論』の偈にも確認されるものである。松田氏は『大乗荘厳経論』の作者について、先行研究にならって弥勒・無著・世親の三者であるとの立場を取るが、その三者は摂決択分に示される作者・解説者・造論者という三者にそれぞれ該当するのではないか、と述べた。摂決択分におけるsūtrālaṃkāraはテキストの名前ではなく、先に示した定義を示す概念として用いられていた可能性が高い。そしてその定義は、松田氏が示してきた『荘厳経論』からの引用例に完全に合致すると語った。

            会場のようす

松田氏は「同じタイトルの論書が全く無関係に存在する」ことは考えにくく、両者には後行するものの先行するものに対する模倣が見られるだろう、と語った。『荘厳経論』と『大乗荘厳経論』には論述スタイルに類似点が見られ、後行する『大乗荘厳経論』は先行する『荘厳経論』の影響を受けていた可能性がある。『荘厳経論』が『大乗荘厳経論』の前提にあるとすれば、『大乗荘厳経論』というタイトルには「大乗の荘厳経論」という意味が見えてくるという。

               記念写真

松田氏は『荘厳経論』からと思われるアシュヴァゴーシャの偈は試作技術が高く、どれも美しいものであると述べ、未発表の偈を紹介して講演を締め括った。講演後は、『荘厳経論』と『大乗荘厳経論』の関係から見えてくるであろう新たな知見について、フロアと活発な議論が行われた。