【ワークショップ報告】“Buddhist Spiritual Care Programs: Adapting Tradition to Contemporary Care”(「仏教におけるスピリチュアルケア・プログラム―伝統を生かす現代のケア」)
2024.04.10
2024年3月9日(土)、龍谷大学大宮キャンパスにおいて、“Buddhist Spiritual Care Programs: Adapting Tradition to Contemporary Care”(「仏教におけるスピリチュアルケア・プログラム―伝統を生かす現代のケア」)と題してワークショップが開かれた。講演者はNathaniel Michon氏(龍谷大学 日本学術振興会・外国人特別研究員)、川本 佳苗氏(東京大学 東洋文化研究所 日本学術振興会特別研究員)、Bee Scherer氏(アムステルダム自由大学 教授)の3名である。司会・進行は本学教授の那須英勝氏が担当した。
近年の宗教研究において、「スピリチュアルケア」はいよいよ重要な課題となっている。宗教関係者も研究者も、どのようなサービスやプログラムを広く一般に提供すべきか、様々な視点を設けて検討している。このような潮流にあって本ワークショップが目指したのは、聴衆を交えて活発な議論を行うことである。その呼び水として、日本および欧米社会におけるチャプレンシーの養成や自殺に関するカウンセリングといった課題について研究報告を行った。
まず、Nathaniel Michon氏は “Compassionate Resilience: A Mandala of Kanon Practices Applied to Chaplaincy Training”(「思いやりのレジリエンス―チャプレンシー・トレーニングに生かされた観音プラクティスのマンダラ」)というテーマで講演した。氏は教育実践者の責任について、受講生に対して単に情報を共有するだけでは不十分であると述べた。そして、知的・精神的な成長に留意するとともに、心を尊重する教え方を実践する必要があると主張した。教育学の中心が受講生の心のケアであるとすれば、教育の実践においても、観音菩薩の慈悲の概念が役に立つという。そこで氏は、西洋のキリスト教的な宗教文化を背景に生まれたチャプレンシーやスピリチュアルケアの実践において、仏教概念がこれまでどのように貢献したのか、これからどのように貢献すべきかについて講演した。
次に川本 佳苗氏は “A Buddhist Priest Tackling Spiritual Care in Contemporary Japan: Ittetsu Nemoto’s Devotion to Suicide Counseling”(「現代日本でスピリチュアルケアに取り組む僧侶―根本一徹の自殺カウンセリングへの献身」)というテーマで講演した。その中心的な課題は、現代日本における自殺問題と、その問題に取り組んできた僧侶による被害者へのスピリチュアルケアについてである。氏が日本の仏教関係者がスピリチュアルケアの在り方について模索を続けるなかで注目したのは、禅宗の僧侶である根本一徹の自殺カウンセリングの活動である。氏によれば、根本の実践方法は独特かつ個人的なもので、正式的な組織や構造に欠けており、それに対する批判はあるものの、仏教関係者として学ぶべき点は根本の自殺予防活動のみならず地域づくり活動に関しても多くあるという。
最後にBee Scherer氏が “Buddhist chaplaincy: Perspectives from the Netherlands”(「仏教チャプレンシー―オランダの事例から」)というテーマで講演した。氏によれば、オランダでは病人や囚人、あるいは軍隊の兵士など特定のグループを対象に、個々人の宗教信仰と世界観に配慮したスピリチュアルケア(チャプレンシー)が法的に保障されるという。また、このようなシステムを有するのはヨーロッパのなかでもオランダのみであるという。アムステルダム自由大学では、仏教チャプレン資格のための政府公認の公務員入学訓練プログラムが実施されており、氏もその教育と実践に直接的に関わってきた。講演ではその経験に基づく教育方法や実践も詳細に紹介された。
3名の講演者による研究報告の後、那須氏の司会のもと、現地およびオンライン参加者から数多くの質疑が寄せられた。活発な議論が交わされるなか、盛況のうちに本ワークショップは終了を迎えた。