【報告】「Two Honganjis’ Pre-World War II Propagation in the South Sea Islands and the Philippines」(第二次世界大戦以前の東西本願寺「南洋群島」・フィリピン開教について)
2025.08.05
2025年6月28日(土)午後、に「第二次世界大戦以前の東西本願寺「南洋群島」・フィリピン開教について」と題する公開ワークショップがオンラインで開催された。発表者はアマ・ミチヒロ氏(大谷大学 国際学部長・教授)で、レスポンデントは、本多彩氏(兵庫大学 生涯福祉学部・教授)、司会は那須英勝(龍谷大学文学部・教授)が務めた。
本ワークショップでは、アマ氏は、自身が研究する日本仏教の国際的展開の歴史的研究の中でも、これまでほとんど取り上げてこられなかった、「南洋群島」・フィリピン開教に焦点を当て、写真・手紙などを含め、現存する資料を丁寧に紹介しながら進められた。東西本願寺は1898年頃より近代日本国家と歩調を合わせた海外開教を始めたが、これまでは「満洲国」や朝鮮半島、あるいはハワイや北アメリカ大陸が主たる研究の対象地域となっていた。しかし「南洋群島」やフィリピンにおいても、東西本願寺の活動があったのであり、アマ氏はこれまで掘り起こすことができた資料をもとに、「南洋群島」とフィリピンの地政学が東西本願寺の開教に与えた影響、「沖縄開教」との関連、さらに先住民族との関係も含めて、新たな視点から東西本願寺の植民地布教の検証が行われた。
アマ氏の発表の要旨は以下の通りである。東西本願寺は明治時代以降近代日本国家と歩調を合わせた「海外開教」を始めた。今までは「満洲国」や朝鮮半島などの東アジア、あるいはハワイや北アメリカ大陸が「海外開教」研究の対象となり、前者は「植民地布教」、後者は「移民布教」と位置付けられてきた。しかし「南洋群島」とフィリピンにおける東西本願寺の教化活動を地政学的に俯瞰すると、「海外開教」は必ずしも二極化されたものではなかった。1921年に日本が国際連盟から委任統治C式を受任し「南洋群島」の統治を始めたことを考えると、「南洋群島」は日本の「植民地」だったわけではない。またフィリピンでの「開教」は当初は「移民布教」と位置づけられるが、日本軍がフィリピンを占領した後は短期間とはいえ「植民地布教」的性格を帯びることになる。
また「南洋群島」とフィリピンは僧侶が沖縄県移民や先住民族と頻繁に交流した場所でもあった。例えば1941年のコロール島東本願寺の「門徒」の九割は沖縄県民であり、開教使は「島民」(当時はチャモロ族とカナカ族に分けられた)にも布教を試み、フィリピンミンダナオ島ダバオではバゴボ族とも連絡を取った。「南洋群島」とフィリピン「開教」に目を向けることで、「沖縄開教」研究やアイヌ民族に限られてきた先住民族への布教研究は重層的になるだろう。そして従来、大西洋とキリスト教が中心だった宗教と植民地の研究も太平洋と仏教に焦点を当てることでより学際的になると考えられる。
アマ氏による発表の後、本多彩氏がレスポンデントとしてコメントを述べた。本多氏は、本発表で、アマ氏は従来の日本仏教の海外開教の研究で用いられる「植民地布教」か「移民布教」かという二分法では捉えきれない、南洋群島およびフィリピンにおける本願寺派の布教活動を再検討し、地政学的視点と島民や先住民との接触に焦点を当てているところが大変興味深いと指摘する。
越境する宗教という観点からは、アメリカ本土の日系移民に対する政策との関連や、この地域で先行して宣教活動を進めていたキリスト教など、他宗教の影響、相互作用についても今後の研究課題となるのではないか。さらに、現地寺院における教化団体の組織化と活動内容、若者や子供にどのような思想を伝えようとしていたのかについてもさらに資料を掘り起こすことで解明していただきたいと述べた。
またアマ氏は、参加者からの質問に答える中で、この地域では、開教使の努力によって島民や先住民と僧侶の親和的関係が構築できたケースがあったことも報告されたが、その一方で、開教使が、伝道の場において、仏教への入り口として仏教の通念的な事を説いていたことは窺えるとする。しかしその一方でどの程度まで純粋な浄土真宗の教えに基づく信仰をすすめることが出来ていたかは不明であると報告されたことは大変興味深い点である。
本多氏のコメントの後、講師・コメンテーターに加えて、参加者によるディスカッションが行われ、アマ氏は、沖縄県移民関連の資料のさらなる掘り起こしに加え、当時のアメリカの移民政策の影響に関連する資料や「南洋群島」・フィリピンにおける、仏教とキリスト教との関係についても調査を行う必要がある。また、本日は東西本願寺の活動に絞ってお話ししたが、実際にこの地域で開教を行なっていた日本仏教諸宗派の活動を含めて、「南洋群島」・フィリピンにおける仏教伝道の全体像をあきらかにしたいと述べて、ワークショップを締め括った。
※この公開ワークショップは、世界仏教文化研究センター国際研究部門と国際真宗学会(International Association of Shin Buddhist Studies)日本支部が共同で企画・開催したものです。
※アマ氏の研究発表はJSPS科研費JP25K03597の助成を受けたものです。