【報告】研究セミナー「終活という営みから考える寺院の未来」
2025.09.30
2025年9月11日(木)、龍谷大学大宮キャンパスで「終活という営みから考える寺院の未来」と題する研究セミナーが開かれた。講演者は龍谷大学農学部准教授の打本弘祐氏、浄土真宗本願寺派眞覺寺住職・ピュアホワイト代表の宇仁菅真志氏、浄土宗應典院住職の秋田光彦氏で、司会・進行を世界仏教文化研究センター客員研究員・浄土真宗本願寺派総合研究所研究員の遠山信証氏がつとめた。本研究会では、臨床宗教師によるケアとお見送りの現状や、僧侶が手掛ける遺品・生前整理事業への取り組み、コミュニティにおける寺院と弔いの展望など、多様な実践活動について報告した。

最初の発表者である打本弘祐氏は、岐阜県大垣市にある沼口医院の事例を通して、日本のホスピス・緩和ケア病棟と宗教者の関係性や終末期医療の現場における臨床宗教師の役割を紹介した。打本氏は日本の緩和ケアのポイントとして多職種によるチーム医療体制であることを挙げ、そのなかでも患者とその家族への支援として「お見送り」「お別れ会」などの宗教儀礼が重要な役割を持つことを指摘する。その一事例として沼口医院内で行われる「お別れ会」を紹介し、患者からの「信仰」や「スピリチュアルな遺産」を家族に取り次いでいく橋渡し的な役割としての臨床宗教師の在り方を説明した。
2番目の発表者である宇仁菅眞志氏は、「お坊さんがする遺品整理・生前整理」をコンセプトとした会社ピュアホワイトの代表者であり、自身が経験した遺品整理・生前整理の事例から終活における僧侶の役割を紹介した。宇仁菅氏は、終活に際して当事者が抱える悩みや時代の変化による終活の問題点を指摘し、墓・仏壇じまいの増加や寺離れの加速化に対応する手段の一つとして遺品・生前整理を紹介する。そして、自身の経験した事例から、「心」と「モノ」を整理し、心に寄り添い・ご縁を大切にする僧侶のありかたを説明した。
最後の発表者である秋田光彦氏は、劇場型寺院として多角的な活動実践を行っている浄土宗應典院の住職であり、2018年から開催されている「おてらの終活プロジェクト」やともいき堂の建設、看仏連携等の事例を通して、地域コミュニティを支える僧侶のありかたを説明した。秋田氏は、消費行動としての終活では情報やサービスに限界があり、生物多様性社会において人間や人間以外の生死をどのように考えるべきか、と問題提起する。その問題に取り組む一環として、お寺を「死生観形成」の拠点として置き、対象を個人に限定しない視界の確保と地域共創のデザインを模索していることを説明した。

講演後、司会と発表者によって活発なディスカッションが行われた。ディスカッションの中では、終活における僧侶・寺院の役割や終活にかかわる僧侶の経験を今後どのように共有し、発信していくかについて議論が行われた。
