【報告】Back to the Basics? Temples and Community Building in Contemporary Japan(原点回帰?:現代日本における寺院とコミュニティ形成)(国際研究部門)
2026.01.22
2026年1月8日(火)午後、に「Back to the Basics? Temples and Community Building in Contemporary Japan (原点回帰?:現代日本における寺院とコミュニティ形成)」と題する研究セミナーが龍谷大学大宮学舎・西黌2階大会議室で対面とオンライン併用で開催された。発表者はケープタウン大学(南アフリカ共和国)教授のエリザベッタ・ポルク(Elisabetta Porcu)氏、司会は那須英勝(龍谷大学文学部・教授)が務めた。
本研究セミナーは、ポルク氏が沼田研究フェロー(2025年度)として世界仏教文化研究センターを拠点として行った研究に基づくもので、個人化、社会の分断、人口動態の変化が進む現代日本において、仏教寺院がコミュニティ形成の場としてどのように機能し得るかを探るものである。ポルク氏は、本セミナーで、現代の浄土真宗寺院を、御同朋・御同行(同行・同信の者達の共同体)の概念に基づいて運営されてきた歴史を持つ宗教的共同体として位置づけ、その上で、現在、浄土真宗本願寺派で進められている、コミュニティと社会参加を明確に前面に押し出した「御同朋の社会をめざす運動(実践運動)」の取り組みを検証した。

ポルク氏は、まずこの実践運動の前進であった「基幹運動」について、その運動を推進するために、1996年に刊行された冊子『寺報―文書伝道の手引き―』などの資料を取り上げ、そこで日本の仏教教団に共通する課題である檀家制度の衰退や、対話と交流を通じた個人やコミュニティとの関わり方の必要性など、現代の真宗寺院が直面する諸課題として挙げられていたことを示す。
次に、この「基幹運動」の後継として始まった本願寺派の「御同朋の社会をめざす運動(実践運動)」の2024〜2027年の運動実施計画のプログラムでは、「差別を含む人権抑圧」・「人口構成の変化」・「家族構造の変化」・「地方の過疎化」・「少子高齢化」・「日本における人口の高齢化」といった社会問題に立ち向かう必要性とが指摘され、そのような課題を克服し、教えを継承していくために創造性を積極的に活用する必要性を強調さしているが、それらは、この運動の前身である「基幹運動」の冊子ですでに指摘されている諸課題とほぼ同様であり、それらの諸課題が解決に向かうのではなく、さらに深刻な状況に直面していることが感じられるという指摘がなされた。

続いて、ポルク氏は現代社会に生きる人々の持つ様々な「リスク」感の増大と、コミュニティー内の集団的つながりの崩壊について、それを研究する社会学的理論を援用しつつ、現代日本の仏教寺院が、その所属メンバーの減少、世代間の無関心、教団組織への信頼の低下に直面している現状分析がなされた。さらに、そのような現状への対応として、仏教寺院において、漫画、大衆文化、デジタルメディア、メタバース内での宗教儀礼の実践、寺院建築の再設計など、様々な革新的な伝道方法が試みられており、そこでは既存のコミュニティーよりも包括的な宗教的空間が創出されつつあることが報告された。現代の仏教寺院におけるこれらの新しい実践の試みは、寺院と周囲の「世俗的」空間、地域性とグローバルな力、そして組織的権威と個人の主体性との間の、より広範な相互渉を反映しており、特に家族経営の寺院の形態の変化を促す可能性についての指摘もなされた。
仏教寺院で始まっている新たな実践の試みに関しては、具体的には、首都圏近郊の寺院仏教寺院の事例を取り上げ、新しい家族観、寺院のブランディング化、儀礼空間の開放性、前近代的檀家制度への批判への対応などに焦点を当てた現代の寺院活動を通して、その公共的意義を再主張するためにはどのような実践活動が可能であるかその一例が示された。
また、ポルク氏は、上記の研究報告に続いて、日本での研究成果をさらに広い視点から検討するために、オンライン参加者を含めて、本日の研究セミナーの参加者とのディスカッションを行った。セミナー参加者との対話を通して、研究発表で指摘された諸課題は、現代寺院の存在が、世俗権力との相互関係、ジェンダーの階層構造性、さらにコミュニティー内での包摂と排除の力学などによって形作られ、常にその正統性が争われる聖なる空間であるという日本仏教が経てきた歴史的背景を抜きにしては語れないことが浮き彫りになった。現在、ジェンダーと社会正義に関する世界的な議論が広く展開し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の中でもこの問題への取り組みが進められているが、仏教寺院運営の場においては女性のリーダーシップの役割が相変わらず限定的なものにとどまっている。しかし寺院活動の中でのジェンダー不平等の問題は、現代の仏教寺院の実践活動が直面するその他の諸課題と無関係なものではなく、特に寺院運営に直接関わる僧侶はこのジェンダー不平等の問題に危機感を持って対応する必要性も確認された。

最後に、この研究セミナーは、この場で課題解決のために必要な決定的な答えを提示することを目的とするのではなく、問題意識を共有する聴衆との対話を通して、参加者それぞれの実践活動の活性化を促すことを目的として実施されたものである。この研究セミナーに参加していただいた学生諸氏や関連する分野の研究をする同僚と議論を交わし、どのようにすれば現代の仏教寺院がそのコミュニティーの集いの場を提供し、地域社会の発展においてより強い役割を果たせるかどうか、そして、より包括的な活動、特に女性の参加とリーダーシップの向上を通じて寺院が活性化できるかどうかという重要な問題を掘り下げることができたことは大変有意義であった。
