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【報告】研究セミナー「龍谷学黌大蔵書の成立とその後」【世界仏教文化研究センター 基礎研究部門】

2026.03.16

2026年3月15日(日)、龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室にて、世界仏教文化研究センター 基礎研究部門 親鸞浄土教総合研究班主催による研究セミナー「龍谷学黌大蔵書の成立とその後」が開催された。講師は鶴見大学文学部講師の万波寿子氏で、コメンテーターは龍谷大学世界仏教文化研究センター博士研究員の西村慶哉氏がつとめた。龍谷大学文学部教授の高田文英氏の司会の下、活発かつ有意義な意見交換が行われた。

万波寿子氏

講演中、万波氏は近世西本願寺学林における蔵書形成の歴史を再検討し、とくに「龍谷学黌大蔵書」の成立とその後の展開を龍谷大学大宮図書館所蔵資料の調査成果に基づきながら報告された。従来、この蔵書の形成は学林第七代能化である智洞(1763〜1805)の功績によるものと理解されてきた。智洞は学林の蔵書を整理し、未所蔵の典籍を収集するとともに、学林初の体系的蔵書目録『龍谷学黌内典現存目録』を編纂したとされる。しかし万波氏は、蔵書形成の過程は智洞個人の業績だけでは説明できず、より長期的な書物文化の発展の中で理解すべきであると指摘する。

まず、『龍谷学黌内典現存目録』の構成と特徴が検討される。この目録は嘉興蔵大蔵経をモデルとしつつ、天竺・震旦(中国)・日本という地域区分を設け、その下に経・律・論を配置する独自の体系を採用している。また浄土教を中心とする配列がなされており、浄土部を筆頭に華厳・天台・密教・禅など諸宗の典籍が整理されている。この配列は単なる書物一覧ではなく、当時の学問観や仏教理解を反映した体系的知識構造であったと考えられる。

さらに、学林における書物文化の発展過程として、17世紀以降の出版活動や典籍収集の動きが紹介された。慶長期の出版活動、嘉興蔵大蔵経の導入、宝暦期の聖教目録編纂などを通じて、学林は次第に仏書研究の拠点として蔵書を拡充していった。この過程では玄智など複数の学僧が典籍の校訂・出版や寄進を通じて関与しており、「龍谷学黌大蔵書」はこうした知的ネットワークの中で形成されたものと考えられる。

また、蔵書の維持管理の実態についても史料から検討された。天明八年(1788)の京都大火では学林も被災したが、経蔵は僧侶の尽力により守られた。さらに虫干しや点検の規定、紛失防止の措置など、蔵書保存のための具体的な管理体制が整えられていたことが確認できる。これらは学林が膨大な典籍を体系的に管理していたことを示す重要な証拠である。

しかし近代に入ると、学林の制度改革や教育制度の変化により、この蔵書体系は次第に再編される。明治五年(1872)の『真宗学庠典籍目録』では従来の分類が変更され、宗学中心の体系へと移行した。こうした変化の中で、かつての「龍谷学黌大蔵書」という概念は徐々に歴史的役割を終えることになる。

万波氏によれば、「龍谷学黌大蔵書」は単なる蔵書の集合としてではなく、近世仏教界における学問体系・出版文化・蔵書管理の総体として捉え直す契機となるものである。そして「龍谷学黌大蔵書」は智洞個人の事業としてではなく、近世仏教界の書物文化と学問体系の発展の中で形成された知的成果として位置づけられるという。

万波氏の報告を受け、コメンテーターの西村氏は、真宗聖教の目録作成の系譜(存覚・実悟・先啓・玄智など)と近現代の目録研究を概観し、目録が真宗教学研究の基礎資料として重要であることを指摘した。あわせて丹山順芸らの文献学的業績や、大蔵経事業など近年の動向にも触れ、今後の聖典編纂・研究の展望を示した。質疑応答では、学林の編纂事業と本山の関わり方についても話題になった。

記念写真