【報告】特別国際講演会
2023.06.05
2023年4月20日(木)に、龍谷大学大宮キャンパスでは、特別国際講演会が行われた。本講演会では、Kyong-Kon Kim氏(ストラスブール大学准教授)が “Eugène Burnouf and research on Indian Buddhism”(「ウジェーヌ・ビュルヌフとインド仏教の研究」)について講演し、次にGuillaume Ducoeur氏(ストラスブール大学教授)が “The prototype of the ancient ṛṣi and the constructed figure of the Buddha in dhyana”(「古代インドにおけるリシ(聖仙)の原型とディヤーナする釈迦像」)というテーマについて講演した。司会・進行は、本学教授の嵩 満也氏が担当した。
まずKyong-Kon Kim氏は、その講題の通り、19世紀フランスの仏教研究者であり、西洋における仏教研究の先駆者の一人でもあったウジェーヌ・ビュルヌフ(1801-1852)が著した『インド仏教史序説』(Introduction à l’histoire du buddhisme indien、1844年、647頁)と『法華経』(Le Lotus de la bonne loi、1852年、897p.)からの事例を取り上げつつ、ビュルヌフによる仏教研究の発展のための貢献について講演した。仏教研究においては、ビュルヌフが文献史学的なアプローチを重視し、その研究手法が後世の仏教学者やインド研究者に高く評価され、広く継承された。特に、テキストを中心としたビュルヌフの文献学的な研究方法は、欧米のみならずアジアでも、訓詁学的、哲学的、民族学的な研究手法と並んで、仏教研究の大きな軸の一つをなしている。ビュルヌフがSaddharmapuṇḍrīka sūtraという特定の経典をフランス語に完訳させた背景には、そうしたテキストに重視する姿勢があった。仏教研究の基礎を築いたビュルヌフの貢献は、現在では忘れられがちであるなか、Kim氏はその再評価を目指している。
次にGuillaume Ducoeur氏は、古代インドの文献に見るリシ(ṛṣi、聖仙)の原型と、そのイメージが後にディヤーナ(禅定)する釈迦のイメージの中でいかにして継承されたのかについて発表した。従来の仏教伝記では、釈迦が悟りを開いて三明(trividyā)を獲得した前、同じく般浬盤(parinirvāṇa)の前にも、4つの思索の状態(contemplation, ディヤーナ)を経たとされる。その一方で、仏教における重要な教えである四諦や八正道、あるいは古代仏教の教義に共通する縁起論などを説くとき、ディヤーナという言葉は使われることはなかった。Ducoeur氏によれば、ディヤーナする釈迦にめぐる諸説は、後に仏教の教えの中で盛り込まれた。仏教の聖人伝作者は、とりわけ古代インドのヒンズー教などで論じられたṛṣiの概念を取り入れて釈迦の伝記を論じようとした。例えば、リグ・ヴェーダでは、ṛṣiがその熱心な禅定を経て初めて天の法則(ṛta, cosmic order)を自覚することができたと論じられている。氏は、仏教の聖人伝作者にとって、釈迦は正法を悟った新しいṛṣi(あるいは大仙、maharṣi)であったという。
講演者による講義後、三谷真澄氏(龍谷大学教授)によるコメントと質疑がなされた。三谷氏は、ビュルヌフの研究方法が日本の仏教研究世界に与えた影響や、その研究方法は現代の仏教研究においていかに重要であるのかについてコメントし、フランスの大学における仏教研究の状況などを含む多義にわたる議論と質疑が交わされた。そして、参加者・聴衆からも幅広い内容について活発な質疑があり、充実な議論が行われた後、講演会は終了を迎えた。