【報告】龍谷大学世界仏教文化研究センター研究員の山田直史氏、陳慶昌教授らによる共著論文が国際学術誌『Czech Journal of International Relations』の特集号「Grappling with theClimate Crisis in IR: Existentially, Psychologically, Interdisciplinarily」にて発刊されました【世界仏教文化研究センター応用研究部門】
2025.03.26
【掲載論文】
論文名:Rethinking the Climate Crisis Here and Now: Mahāyāna Buddhism, Engi Relationality, and the Familiar Pitfalls in Japanese and Taiwanese pro-Nuclear Energy Narratives
著者:山田直史1、Klara Melin2、陳慶昌3
所属:1. 龍谷大学世界仏教文化研究センター/立命館大学大学院国際関係研究科、2. Department of Economic History and International Relations, Stockholm University/The European Institute of Japanese Studies, Stockholm School of Economics, Sweden 、3. 龍谷大学世界仏教文化研究センター/立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部
論文掲載:https://cjir.iir.cz/index.php/cjir/article/view/1800 (オープンアクセス)
【本件のポイント】
・本稿は、大乗仏教の思想を活用した気候変動・エネルギー安全保障論研究の成果である。
・本稿は、大乗仏教の関係的存在論(縁起的関係性)、時間性(而今)、および自他の非二元論(依正不二)の知見を活用し、「自然」との関係をメタ理論的視点から再検討することで、気候変動・エネルギー安全保障論研究に貢献している。
・本稿の研究成果は、気候変動問題、日本・台湾における親原子力エネルギー言説、さらにはそれらを支える近代的二元論(自然=人間の利益拡大のための外的資源)を再考する上で、重要な政策的・倫理的意義を持つ。
【本件の内容】
近年、日本と台湾における安全保障の文脈で、気候変動問題とエネルギー危機が密接に関係している。平均気温の上昇や災害レベルの豪雨などの異常気象に加え、ロシアのウクライナ侵攻によるガス供給の停止がヨーロッパにおけるエネルギー危機を引き起こし、両政府はその対策として原子力発電を推進している。これは、カーボンエミッションの削減(気候変動対策)と電力の安定供給の両立を図る「一石二鳥」の解決策とされる。しかし、原子力推進派は自然を人間が制御可能な外的資源として捉えており、その思考は①人間と自然の二元化、②自律的主体への信奉、③直線的時間という近代的信念に基づく問題解決型アプローチに囚われている。その結果、原子力発電の再導入がもたらす自然に対する倫理的議論は十分に検討されていない。
本稿では、この点を批判的に検討するため、大乗仏教の思想を気候変動問題への新たな視座として適用し、自然との関係をメタ理論レベルから再考した。縁起の視点に立てば、「人間」と「自然」は関係存在論的に不可分であり、而今の視点から現在は近代的な無機質な時間ではなく、無数の縁起的関係性の中で紡がれる「血の通った時間(a ‘lived’ time)」として理解される。さらに、この現在は「過去」と「未来」が交差する縁起の動的プロセスである。したがって、原子力発電の推進は単にカーボンエミッション削減やエネルギー安全保障の問題にとどまらず、2011年の福島原発事故が示した近代安全神話の崩壊という過去の教訓や、核廃棄物問題を抱える未来世代への責任が<今、ここ>で倫理的に問われていることを意味する。
ただし、大乗仏教の思想では、すべては無常であり、あらかじめ何が善であるかを決定することはできない。すなわち、地球環境にとって何が善となるかは、具体的な文脈の中で「自然」との関係を踏まえ、慎重に検討されるべきである。この視点こそが、気候変動を単なる技術的課題としてではなく、倫理の問題として捉え直す所以となるのである。
【研究支援】
本研究は数多くの研究支援によって実施されました。
・龍谷大学世界仏教文化研究センター応用部門
・龍谷大学国際社会文化研究所(2023年度)代表者:清水耕介
・龍谷大学重点強化型研究推進事業(2023年度)グローバルアフェアーズ研究センター 代表者:陳慶昌
<研究に関する問い合わせ先>
龍谷大学世界仏教文化研究センター嘱託研究員・山田直史
a16402@mail.ryukoku.ac.jp
<担当部局>
龍谷大学 世界仏教文化研究センター(大宮) 紛争解決研究班担当
Tel 075-343-3458 cswbc2@ad.ryukoku.ac.jp
https://rcwbc.ryukoku.ac.jp/