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【報告】Worlds of Glocal Zen: A New Approach to Religious Worldmaking (グローカル禅の世界:宗教的世界形成への新たなアプローチ)(国際研究部門)

2026.01.15

2025年12月26日(金)午後、に「Worlds of Glocal Zen: A New Approach to Religious Worldmaking (グローカル禅の世界:宗教的世界形成への新たなアプローチ)」と題する研究セミナーが龍谷大学大宮学舎・西黌3階小会議室で対面とオンライン併用で開催された。発表者はウィーン大学教授フェローのウーゴ・デッシ(Ugo Dessì)氏、司会は那須英勝(龍谷大学文学部・教授)が務めた。

講演中のウーゴ・デッシ博士

 デッシ氏の発表の要旨は以下の通りである。本発表では宗教学と文化のグローバル化にかかわる学際的研究の接点において、禅仏教というグローバルに展開する宗教がイタリアでどのように適応しているかを、ローマの曹洞宗の「安心禅センター(Centro Zen Anshin)」およびイタリア国内各地に展開するその支部を事例に取り上げ、その宗教学的意味を探求するものである。

 デッシ氏は、この禅グループに参加する実践者へのインタビューの分析を通じ、安心禅センターはグローバルな流れの中に組み込まれた「ローカルな居住形態」として位置づけられるとする。すなわち、環境との共鳴(レゾナンス)をきっかけに構築され、個人の多様な希求を充足させることを目的とした、集合的かつ個人的な「グローカルな宗教世界」といえよう。また安心禅センターに参加する実践者の持つ希求心は、センターの指導者たちが伝える仏法(ダルマ・仏の教え)や、瞑想のテクニック、仏性を宿す寺院としての身体というコンセプトなど、指導者の持つ専門的知識で補完されたノウハウを通して正当化されている。

司会:那須英勝(龍谷大学文学部教授)

 安心禅センターの実践者たちが持つ宗教的世界観の特性は、ダンサーとしての経歴を持つ指導者たちが、その経験を自らの禅仏教の実践の中に創造的に取り入れたことに大きく起因している。またそうした宗教世界のグローカルな性質は、(匿名化された)一般実践者の語りの中にも浮き彫りにされている。彼らの「禅による世界形成(ワールドメイキング)」は、それぞれの持つ過去の経験との共鳴、自己修養(セルフ・エンパワーメント)、感情、そして新たに生じる希求など、様々な要因によって突き動かされていることが分かる。
また、実践者たちの語りは、グローカルな世界形成が「位置取り(ポジショニング)」の問題であることも示している。一般実践者の世界は通常、中心からそれぞれ異なる距離を保つ「流動的な周辺」として機能している。そして、指導者も一般実践者も同様に、グローバルな科学や資本主義などに対する共感的あるいは対立的な見解、さらには禅を基盤としたグローカルな主体としての自省的な意識を通じて、それぞれがグローバルな文脈に対する自らの立ち位置を定めているのである。

質疑応答の様子

 デッシ氏による発表の後、オンラインでの参加者を含めたディスカッションが行われた。特にこの禅グループのリーダーが、アメリカで活動する曹洞禅の奥村正博師の法統に繋がり、かつ日本の曹洞宗より国際布教師の認定を受けている伝統性と、ダンサーとしての経歴を背景として現代イタリア人の生活に深くコミットした非伝統的な禅センターの運営が両立している点に参加者の関心が集まった。この点についてデッシ氏は一般実践者へのインタビューを通して分かることは、日本の正統な禅仏教を継承しているリーダーへの信頼感と、ダンサーの背景をもつリーダーの禅に対する身体性理解が、現代イタリア人の生活感にフィットした禅の実践につながっていると考えている。
またデッシ氏は、禅センターで瞑想に参加する一般実践者の語りを通して分かることは、必ずしも全員が曹洞禅にのみコミットしているわけではなく、自身が仏教徒であるという自覚を持ちつつも他の宗教に対する関心を持ち、また社会や政治についても多様な意見をもつものが多いことが分かる。このような禅センターを取り巻く「ローカル」な状況に対して、リーダーは曹洞禅の伝統の純粋性(コア)を維持しつつも、禅センターに集まる多様なニーズを持った「流動的な周辺」に寛容性を持って対応する能力を持っていることが、イタリアにおける安心禅センターの活動拡大の背景にあると考えられるとする。

会場の様子

 最後に本研究セミナーの締めくくりとして、仏教の国際伝道を研究する際には、これまで伝統の純粋性(コア)をいかに維持されるかに焦点を当てたものが多いが、デッシ氏の報告でも指摘されているように、一般実践者の多数が位置する「流動的な周辺」への対応(ローカルな宗教的環境との共鳴[レゾナンス])を考慮に入れた研究の必要性も今後の課題として提示された。