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【報告】講演会「菩薩の学びと自利・利他行」

2023.06.02

 2023年5月25日(木)、龍谷大学仏教学大会において、龍谷大学名誉教授の若原雄昭氏より「菩薩の学びと自利・利他行」と題した講演会が開催された。コロナ禍を経て、実に四年ぶりの開催となった仏教学大会には教員をはじめ多くの学生が参加し、会場はほぼ満席となった。

             会場のようす

 講演は、コロナ禍が大学にとって「学び」とは何かを考え直す機会になったと始められ、仏教における学び、すなわち菩薩の学びについてインド大乗仏教瑜伽行派の重要典籍である『菩薩地』(Bodhisattva-bhūmi)に基づいて語られた。

 『菩薩地』は、若原氏が長年研究に取り組んでいる『大乗荘厳経論』(Mahāyāna-sūtra-alaṃkāra)の元になった『瑜伽師地論』(Yogācāra-bhūmi)の中の一書である。現在、菩薩の学びについて説かれる『大乗荘厳経論』第五章を、「菩薩の自利利他行」と題して出版準備中であるという。

             若原 雄昭氏

 『菩薩地』では、菩薩の学び(śikṣā)として、菩薩の素質を潜在的に備えた凡夫が本当の菩薩へと成長していくためのカリキュラムが示される。これは『菩薩地』が提示する修学事項の最初に位置する「自他利品」において説かれ、自利・利他は菩薩の学びを方向付けるものとされている。この自利・利他は大乗仏教における重要な理念であるが、すでに初期仏典中にその片鱗が見られ、この理念がいつ生じたのかは、大乗仏教の成立にも関わる重要な問題であるという。

 また「学」は初期仏教以来、戒・定・慧の三学として示されてきた。このうち「戒」(śikṣā)とは自己を律するためのものであるが、戒律の条項は学処(śikṣā-pada)といい、「学」とは本来的には「戒」を指していた可能性が指摘された。そしてこの「学」と「戒」の緊密な関係性は『菩薩地』を理解する上で重要なものであると語られた。

 『菩薩地』に示される菩薩の学びは、決して我々から遠いものではない。何を、どのように学び、何者になるべきかというプロセスは現代の教育にも通じるものである。本講演を通して、学ぶ者、そして学ばせる者が、「学び」をどう考えるかという問題提起が行われた。